PSonDS4NMD(1)-Articulation of Agenda-
材料は社会を構成する基本的な要素のひとつであると位置付け、材料に関するデータ・情報・知 識は基本的な要素を組み合わせて社会を構成するための「言語」と考えて、将来の材料データシス テムに関する基本仕様を検討した。本論文ではこの原点からの検討の第一報として、これまでの当 該分野の研究開発の経緯を総括し、将来の材料データの流通と情報ライフサイクルを想定しながら、 システムとしての基本仕様の考え方と実現するための主要な検討項目を今後の30年のアジェンダと して提示した。

新材料開発のためのデータシステム試論(1)—アジェンダ設定—
Preliminary Study on Data System for New Materials Development(1)-Articulation of Agenda-
岩田修一    Shuichi IWATA

材料は社会を構成する基本的な要素のひとつであると位置付け、材料に関するデータ・情報・知 識は基本的な要素を組み合わせて社会を構成するための「言語」と考えて、将来の材料データシス テムに関する基本仕様を検討した。本論文ではこの原点からの検討の第一報として、これまでの当 該分野の研究開発の経緯を総括し、将来の材料データの流通と情報ライフサイクルを想定しながら、 システムとしての基本仕様の考え方と実現するための主要な検討項目を今後の30年のアジェンダと して提示した。
Material are positioned as basic elements to make our society, and data, information and knowledge on materials are assumed as “language” to implement our society. Based on this metaphor “language” the author investigated basic specifications of future materials data systems. In this first report delivered from the starting point, the concept of the basic specifications as a system and important issues about the implementation are reported with a brief summary on previous R&Ds of materials data systems and next 30 years perspectives on dissemination and value-added life cycle of data/information/knowledge.

1. はじめに

 今世紀に入ってから世界中でデータ駆 動型の材料システムとAI技術を組み合わせた大規模な研究開発プロジェクトが始 まっている。その中で国家レベルのプロジェクトとして華々しく口火を切ったのは米国のMGI (Materials Genome Initiative) である。2011年に米国の国際競争力を強化 するための国家重点目標のひとつとして 位置づけられ、その後、類似のミッション で、日本、欧州、中国においても類似のプ ロジェクトが開始された。それぞれの国の 産業や研究者の事情にあわせて研究内容 や位置付けを少しずつ変え、MI、MGE, Marvel等々の略称で国別あるいは地域別 に実施されているが、グローバルな本格的 連携には至っていない。米国MGIについて は経済的な効果について年間123〜270BUS $の貢献があったと分析され、2018年秋に は成果についての総合報告が公表される ことになっている。[1],[2],[3]

 いずれも20世紀後半の長いインキュベ ーションの期間を経て開始されたプロジ ェクトで、その背景には今世紀に入ってか らの急􏰀なデータ科学、計算科学、人工知 能、クラウド等々の要素技術の進歩と普及、 そして情報環境や経済環境の充実がある。 科学技術分野の共時性を示す格好の事例 ではあるが、本シリーズ論文では1960年代 の萌芽的な挑戦にも遡求しながら通時的 な視点も加え、将来を設計することにする。

 この半世紀を超える時間の中での社会 システムや情報システムの大きな変化を 俯瞰すれば、集中から分散、占有から共有、 テキストからマルチメディア、ウォーター フォール型からアジャイル型開発、SQLか らNoSQL、オンプレミス型からクラウド型、 知財保護からオープン化等々の多様性の 拡大がある。特に今世紀に入ってからの情 報資源の共有と活用の状況は大きく様変 わりしてきた。

   この大きな変化については、適宜、適応 と総括をしながら上記のプロジェクトの進行と並行して展開する議論を組み込み、 持続可能性のあるグローバルな材料デー タの共通基盤、すなわち人類全体の公共財 としての材料コモンズ実現のための道筋 について論述することにする。本試論(1) は全体像を素描するための作業仮説の紹 介である。

2. 経緯と課題設定
1970年に合金設計、材料設計と研究題目 を設定して、実験室でなくコンピュータ上 で所望の材料の設計をするためのプラッ トフォームの開発に着手した。きっかけは、 2017年に廃炉が決まってしまった高􏰀増 殖炉原型炉「もんじゅ」の後継の商業炉に 使う核燃料被覆材候補のバナジウム合金 の研究開発である。
一般に画期的な特性を発揮する物質の 発見の物語は試行錯誤やセレンディピテ ィーに期待する活動の代表例として語ら れることが多い。また実用材料の信頼性を 高めるためには想定する使用条件にした がって緻密な実験計画を策定しての膨大 な実証試験の積み重ねが必要である。材料 の研究開発における経験とカン、偶然の専 制、時の運まかせという状況からの脱皮: はいスループットが目標であった。

 原子炉材料は高温かつ強力な放射線場 での使用という物質としては全く未経験 の新しい使用条件での材料の大規模な研 究開発であったため、核エネルギーシステ ムで使用する材料の研究開発の事例は既 往の科学技術の成果を駆使した候補材料 の戦略的探索の範例であった。核的性質は 核種固有のエネルギー依存の特性であっ たため同位体と元素の組成と核特性との 四則演算で候補となる材料の物質の選定は可能であった。媒体中での中性子のエネ ルギー、密度分布、放射線の減衰について は詳細なモデル計算が必要であったが、順問題としての計算手順は準備されていた。

 システム中での役割を負った物質とし ての材料の特性に関しては構􏰁鈍感な特 性と構􏰁敏感な特性とに大別される。材料 の構􏰁鈍感な特性は、原子の2体間相互作 用あるいは小規模の原子から構成される 仮想的な原子クラスターの特性との相関 が高い。構􏰁鈍感な特性の代表例としは、 ヤング率、熱膨張係数などがある。一方、 構􏰁敏感な特性は、アボガドロ数レベルの 数の構成原子が相互作用する複雑な集団 運動の結果、例えば腐食、疲労、クリープ のような特性である。具体的な説明は本論 文に続くシリーズ論文の中で詳述するが、 データ記述の結果としては構􏰁鈍感な特 性のメタデータは構􏰁敏感な特性のメタ データに比較して圧倒的にフィールド数 の少ない記述になる。こうしたメタデータ の違いを反映して構􏰁鈍感な特性群を活 用した四則演算で上記の核的特性で絞り 込んだ候補材料のさらなる絞り込みが実施され、人工物としての核エネルギーシス テムの概念設計が実施された。

 核的性質から構􏰁鈍感な特性にいたる 特性の四則演算による候補材料の選定絞 り込みの手順は1969年にE.F.Coddによっ て提案された関係モデルとの親和性が高 く、そのための材料データシステムを構想 することは容易であった。メタデータが複 雑でない核データ、構􏰁鈍感な基礎物性を 関係モデルで簡便なデータベースとして 実装することは当時のデータベース管理 システムでも実装可能であった。プロトタ イプがメインフレームコンピュータの端末で操作できるようになると、そのツール の普遍性に関する純粋体験(関係代数、キ ーボード、GUI、材料実験)から材料デー タシステムの次の50年後の仕様は直感的 に素描することができた。すなわち構􏰁- 特性相関という多変数の双方向の写像と いうアイデアの受肉であり、構􏰁特性に関 する遡求:電子スピン構􏰁の第一原理計算、 イメージ情報を活用した構􏰁の多様なダ イナミックスの解釈と活用に関するAI(人 工知能)、多元的な事象に関する可視化と 抽象化・粗視化などから構成される。

 その後の20世紀後半の情報環境の大き な変化は高機能化、高􏰀化、低価格化、大 容量化、分散化の歴史である。具体的な達 成目標を設定し、研究開発計画を策定し、 決然たる意志によって、組織的に目標に到達するというプロジェクト群が社会を牽引した時代でもあった。未来は予測可能で、 制御可能であるという確信の下に、予測不可能な事態には自在に適用可能だという 確信に衝き動かされた時代でもあった。こうしたウォーターフォール型の戦略が必ずしも有効でないと人々が気付き始めたのは1990年代に入ってからであるが、材料データシステムの研究開発においてはデ ータ発生のエコロジーを軽視して依然としてウォーターフォール型の研究開発戦略が採用され、多くの失敗を繰り返した。

 今世紀に入ってからの材料データシス テムの研究開発は、新しい将来像を求めての模索の時期に入っている。近年の情報環境の格段の進歩を反映して、過去に失敗した諸課題への再挑戦が始まった。そして個別的な再挑戦の成果のパッチワークによ って形成された新たな環境下:材料プラッ トフォームでの新たな純粋体験—ビッグデータ、深層学習のような拡大した多様性と 階層性を楽しむ人々が増えてきた。さらにはIoT/TSU、VR/AR/MR、3Dプリンターなどの実空間とサイバー空間とをつなぐ新たな機器が普及しつつあり、そうした情報環境の変化が新たな場を創生しつつある。し かしながらそうした情報環境が、メタデー タを確立することでさえ必ずしも容易でない構造􏰁敏感な特性が重要である工業材 料の情報流通と活用に何処まで有効なのかは予測できない。

 工業材料という産業分野は、複数の主体がひたすら便益や利潤を追求することで 大量生産、大量消費、大量廃棄に基づく産業社会パラダイムの骨格を形成し、全体としては経済的合理性や社会的合理性を達成してきた分野である。試行錯誤を通して 進化してきた制度、規制、標準のようなル ールと科学的合理性や技術的合理性の断片とを目的に合わせて有機的に組み合わせることで、多様な現場の問題をひとつひとつ解決をしてきた。そうした文脈依存の 合理性が複合的に作用して現代社会を支 えてきたと考えることもできるが、そうし た工業材料の取り扱いではデータの生産から活用、廃棄に至るライフサイクルのさまざまな局面での慎重な配慮を要請する。

 一人一人が自分の視点と表現でデータを整理し、クラウド上にアップロードし、 データの共有と活用をする時代である。デ ータを巡る国際的状況は新しい時代を迎 えている。競争と協調、共有と活用、集中と分散、標準化と多様化がダイナミックかつ複雑に絡み合って、量的にも大きく増大 し、質的にも極めて拡大し多様化している。 多様なデータ表現が混在する時代における時代の材料データシステムのエコロジーについての洞察と展望が必要である。

3. 材料コモンンズへのアジェンダ
以上の考察を基に今後の材料コモンズ 実現のための核となる論点を示す。
1. 認知論:物質・材料の特性・ふるまいからフィールドデータまでの理解とデー タ・情報・知識の表現等。

2. 実体論:データ活用方法;データのトレーサビリティー;情報流通市場;製􏰁・ 物質・エネルギー収支の把握等。

3.インターフェイス論: (人間、機械、 物質・材料、データ・情報・知識)相互間 のコミュニケーションの分析と実装等。

4. 組織論: 相互運用可能性、集合知、生産性の高い場:エコロジーの創出と保全、 ストーリーの共有等。

5. 実践論・設計論・価値論:ロードマッ プの策定とプロトタイプの設計・開発;デジタル化事業モデル;品質/信頼性と価格、 知財、商品と公共財、データ戦略等々のマ ルチレンマ問題の超克等。

 次回以降は代表的な材料データプロジ ェクトの具体例を通して上記論点につい ての検討を逐次進め30年後のグローバル な材料コモンズ実現への道程を示す。

参考文献
[1] https://mgi.nist.gov(2018年9月25日 参照)

[2]https://www.jst.go.jp/sip/k03/sm4i /project/project-d.html(2018年9月25日 照)

[3]https://search.usi.ch/en/projects/ 810/marvel-materials-revolution-compu tational-design-and-discovery-of-nove l-materials(2018年9月25日参照)

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