「原子力と社会」の研究成果は活かせているのか?
先例のない課題の解決、未知への挑戦を継続する知力、精神力、知性に磨きをかけるための絶好のチャンス
・他分野からの学びの課題
学術研究は先行研究の上に積み上げられることが多く、たこつぼ化して、新しい研究が出てきにくい側面がある。福島での取り組みも「住民目線」で行われているものは少ない。工学だけでなく、政治学、社会学、心理学から考える研究がもっと必要で、そうでないと実装できる、広い視野による研究が生まれてこないのではないか?
・社会に実装できるような研究成果を得るために
医学研究や工学研究の対象は中身が複雑で、科学の言葉だけで説明しきれないことも少なくない。そういう場合にはプロトタイプを作って試してみることが役に立つ。社会に実装するには、皆が共有できるプラットフォームの上で、新たな共同体、新たな社会のプロトタイプを示し、前に進めていくことが必要ではないか?そうしたプロトタイプの提示を含む提案が望ましい。分かっていないことに挑戦する研究を期待したい。
・規制体系、意思決定の階層構造化とアーカイブ
基調講演に、構造災公文書館を作るという趣旨があったことと対応するが、アメリカの原子力規制の歴史を調べると、各文書が、ミッション(使命)、オブジェクティブ(目的)、ストラテジー(戦略)、プロセス(方法)、アプローチ(取り組み)にしっかり階層付けされており、これを踏まえた引用関係が明示されている。さらに脚注で、言葉の定義もしっかり行われている。これに対し、以前、日本の原子力安全委員会の安全審査指針の規制を体系化しようとしたが、複雑すぎてできなかった。中には基調講演中のSPEEDI結果公表が阻害されていた事例と似て、相矛盾することもある。社会学的アプローチで、技術体系、規制体系、意思決定に関して、文書化の構造、アーカイブ、引用の体系といった日本が不得手な領域に取り組むことも重要なテーマではないか。
・この領域でのプリンシプルの重要性
こうした領域で、プリンシプルを通さずに現場修正主義を許すと現場で勝手な規範が生じ、原子力ムラのような弊害を生じてしまうのでは。