事故からの教訓、学び
人間、人間集団の特性を配慮した制度設計、システム設計
・事故からの学び:事故調査では注目されない事故の全体像「事象」としての捉え直し
政府等の事故調査の目的は事故の原因究明、再発防止なので、報告書の内容は現場で見えていたものと違う。現場では事故調査報告に書かれていない、もっと色々な行動が取られていたが、「原因」と関係ないと切り捨てられる。(cf.政府事故調の委員長発言「もし現場の人の力が無かったら、もっと大きな災害になっていたのでは・・・」)
表に出ていない部分で人の対処等で上手く行った部分も見ることが必要なはず。次は違う組織が対応するので、上手く行った部分が次も上手く行くとは限らない。次の安全のためには、事故原因だけでなく全体像を見える化する必要がある。その際に、事故のダメージが一瞬で発生し、そのストレスで能力も常時より低下してしまう中、時間をかけた取り組みで回復させていったプロセスへの視点も必要。
・原子炉の暴走を防ぐために必要となる「人による行為」の実施に必要な法を含む社会整備
事故現場は、危険を顧みず職務に従事した人々に支えられた(原子炉職員、消防士、警察、自衛隊)。帰れない危険の中での職務従事を命令はできず、ボランティア精神に依存していたが、原子力のように船や化学プラントに比べ事故影響が広範囲に長期間及ぶシステムで、これで良いのか?
・医療現場との関連性
災害時の対応に関する医師に対するアンケート結果で、自分が危険になっても現場を離れない、という回答が10%程度ある。これが現場の崩壊を防ぎ支えたが、これに依存しつづけてはいけないはず。東京都内の救急患者対応の現場も負担が大きく、課題が共通している。
・「社会技術システム」を動かすには?
原子力発電所のような「社会技術システム」を動かすには、技術的サブシステムと社会的サブシステムの両方が必要。ルールを作るだけでなく、本当に動かせているか、動かすのに何が必要か分かっているか、このようなシステムは誰が設計するのか?
・福島の実態を知った気でいる/知らないの解消
県外避難者の比率(現在1.9%)をwebアンケートで聞くと例えば24%というように大きく誤解されている。実態を知らず理解しないまま、「福島」がマジックワード化して、知った気でいる/知らない状況がある。メディア、専門家の伝え方が不十分だったのか?言葉の需要と供給に大きなアンバランスが生じ、社会科学者も手が回らない事情もあった。
・原子力事故による放射線以外の健康被害から社会を守るため必要な施策
原子力発電は人々を幸せにするための技術、という原点から考える。原発事故による健康リスクの中で放射線起因はほとんど無く、避難行動そのものに起因するリスク、避難後の生活で失業・狭い住居・精神的ストレス・車への依存度増加等が複合して増加した慢性疾患に起因するリスク、独居高齢者の増加・医療や介護の主な担い手である女性が避難して生じた医療崩壊等の社会構造の破壊に起因するリスクを併せた方がずっと大きい。原子力発電の安全性は、技術そのものの安全性だけでなく、このような社会的リスクを考えた安全性も考えなければならない。
原子力発電所の事故に様々な防護策を講じる「深層防護」の基本的な考え方は、第1層「異常の発生防止」、第2層「異常の拡大防止」、第3層「異常が拡大しても、過酷事故に至らせない」、第4層「過酷事故の進展防止」と続き第5層「放射性物質の影響から人と環境を守る」までとされているが、福島の事故で、第6層「原発事故の影響から人の健康を守る」が必要ということを学んだ。
これに備えるには、リスクを科学的に深さ(確率・大きさ)だけでなく社会学的に幅も「知る」こと、関係者が共有できるように同じ言葉で「説明する」こと、意思疎通を支える「リスク感覚が分かる」こと、社会的な合意形成を導く「リスクの最小化」が課題である。